第3回!元気な体をつくりましょう!「負のスパイラルを断ち切る編」
京都大原記念病院 副院長 三橋尚志 医師が「元気な体をつくりましょう!」と題して「元気な身体を作りましょう」と題して、「ロコトレ(ロコモーショントレーニング)」「サルコペニア体操」「フレイル予防」について解説します。内容は11月3日(火・祝)にオンラインで開催された2020丸竹夷オンライン祭りで講演したものです。採録記事として全4回の掲載を予定しています。本記事は第3回となります。(第2回目はこちら)
負のスパイラルを断ち切る
フレイルで一番怖いのは「身体的フレイル(ロコモ、サルコペニアを含む)」「社会的フレイル」「精神的フレイル」の「負のスパイラル」です。体力が落ちて外出がおっくうになり(外出減少)、閉じこもる。そこに加わる家庭環境(老々介護や独居、貧困など)、結果としてうつや認知症の進行など精神的フレイルとなり、また体力が落ちるという負のスパイラルは断ち切らなければいけません。
加齢や、慢性的な疾患により体重が低下すると、基礎代謝量が低下します。するとエネルギー消費量も低下し、摂食・嚥下障害につながり、低栄養状態に。また体重の減少へと負のスパイラルが循環してしまいます。これを断ち切る鍵は「食事」と「運動」です。ここからは「運動」について考えてみたいと思います。
運動の種類と3つのポイント
まずは「運動」です。運動は大きく「有酸素運動」と「無酸素運動」の2つに分けることができます。散歩、ジョギング、サイクリング、水泳など心肺機能の向上、体脂肪の減少、糖尿病や高脂血症などの代謝疾患を改善するのに適しているのが「有酸素運動」です。これに対して、筋力トレーニング、ストレッチ運動など、筋力アップや、またリウマチなどの変形性関節症などで低下した筋力や関節可動域の維持、改善に適しているのが「無酸素運動」です。
基本的には競技レベルの訓練ではありませんので、強ければ良いというものではありません。一般的には最大運動能力の半分位の強さと量、もしくは「運動中の1分間の最大脈拍数=138-(年齢2)以下」になっていれば安全に行えると言われています。例えば50歳の方なら、最大脈拍数113(=138-(502))以下に収まる範囲が適切と言えるでしょう。
加えて、運動のポイントには次の3つの視点があります。
- 1.等張性運動か等尺性運動のどちらをするか
- 2.荷重関節か非荷重関節か
- 3.運動の量・程度・回数
視点① 等張性運動か等尺性運動か
合わない運動は逆効果
等張性運動(Isotonic)とは、筋肉が収縮することで関節を動かす運動を意味します。体を動かそうとして肩を上げたり、肘を動かしたりする。この時、肩や肘の筋肉が収縮して関節が可動しています。このように一定の抵抗に対して、筋肉が長さを変えて(伸びる・縮む)関節が動く運動を「等張性運動」と言います。
等尺性運動(isometric)とは関節を動かさない(静的な)運動を指します。例えば、トレーニング用の強いゴムを引っ張ります。それ以上伸びないというところで止めた時、筋肉も関節も動いていません。しかし、実際はゴムが縮もうとする抵抗に耐えているので、筋肉にはものすごく力が入っています。このような運動を「等尺性運動」と言います。壁に手を当ててグッと力を入れて押すことも同様の運動になります。
例えばリウマチなどで、関節の変形が起こってしまった方が「等張性運動」をすると運動にはなりますが、かえって変形を進めてしまう場合もあります。こうした場合には「等尺性運動」のほうが安全です。ただし、等尺性運動では「いきみ(息を止めてしまう)」に注意が必要です。息を止めてぐっと力を入れすぎてしまうと、急に血圧が上がったり、心臓にも負担がかかってしまうのでその点は気を付けて取り組みましょう。
視点② 荷重関節か非荷重関節か
状態に合わせた負荷量を心掛ける
手首や肩や肘なのか、膝、足、股関節なのかの違いです。運動による負荷で悪影響が出る場合があります。よく膝が悪い人に「筋肉を鍛えましょう」と言うと「歩けばいいですか?」とおっしゃいます。否定することではありませんが、歩くと当然ながら体重がかかり、膝、足、股関節の変形も進んでしまう可能性があるので工夫が必要です。
まず「インターバル(休憩)」です。例えば30分間 歩き続けるのではなく、5分ごとなどこまめな休憩を挟みましょう。それ以外には「履物の選び方」と「歩く環境」です。
平地はいいものの、特に下りの坂道や階段は負荷が大きくなります。また最近の道はコンクリートなので負荷も大きくなってしまいます。お勧めの環境は「プール」です。浮力により関節に負荷がかかりません。かつ水の抵抗もあるので筋肉運動にも良い。プールで歩くのは安全で非常に良い運動と言えます。
視点③ 運動の量・程度・回数
基本は「少量頻回」
運動の原則は「少量頻回」です。少ない量をたくさんに分けて実施する。先ほどもありましたが、たくさん歩くなら途中で何回も休憩をしてもらいます。適度な量もよく聞かれますがポイントは「翌日まで痛みや疲労が残らない」程度です。当然ながら頑張ると疲れますし、関節の普段動かないところを使えば痛みや腫れもでます。ただ、その日のうちにおさまる程度は適切です。ところが翌日まで痛みが残る、疲労が蓄積するのは量が多いと思っていいと思います。私が勧めているのは、テレビを見ていてコマーシャルが始まったら、首を回すとか肩を回すとか、手をグーパーするなどの運動をするというような方法です。
第4回 運動で大切なのは継続性 編はこちら
■解説
三橋尚志 Takashi Mitsuhashi
- ■役職等
- 京都大原記念病院 副院長
- 京都大原記念病院グループ 医療連携室 室長
- 一般社団法人 回復期リハビリテーション病棟協会 会長
- ■資格等
- 日本リハビリテーション医学会指導医
- 日本整形外科学会指導医
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