第2回!元気な体をつくりましょう!「サルコペニア・フレイル編」
京都大原記念病院 副院長 三橋尚志 医師が「元気な体をつくりましょう!」と題して「元気な身体を作りましょう」と題して、「ロコトレ(ロコモーショントレーニング)」「サルコペニア体操」「フレイル予防」について解説します。内容は11月3日(火・祝)にオンラインで開催された2020丸竹夷オンライン祭りで講演したものです。採録記事として全4回の掲載を予定しています。本記事は第2回となります。(第1回目はこちら)
サルコペニア
サルコペニアを一言で言えば、筋肉が落ちることを意味します。語源はギリシャ語で筋肉を表す「sarco(サルコ)」と、喪失を表す「penia(ペニア)」を合わせた造語です。加齢や疾患により筋肉量が減少することで、握力や、下肢、体幹など全身の「筋力低下」が起こります。また、歩くスピードが遅くなる、杖や手すりが必要になるなど、「身体機能の低下が起こること」を指します。
「昔は青信号のうちに余裕を持って渡りきれたのに、最近難しいな。」と、歩く能力の低下を感じる声も耳にします。これは歩幅が小さくなったり、歩くスピードが遅くなっていることの現れで、筋肉が落ちるとこのようなことが起こります。
予防には「食事」と「栄養」が大切
サルコペニアの診断基準には「(1)低筋肉量」「(2)低筋力」「(3)低身体機能」の3つの基準があり、(1)に当てはまり、かつ(2)(3)のいずれかに当てはまる場合は「サルコペニア」と診断されます。
筋肉量が減少するとこのように(画像)なります。このように筋肉が委縮するのは、運動の問題もありますが「栄養」、特に「たんぱく質」摂取の問題も非常に大きな原因となります。女性の場合は、思春期からどうしても必要量よりも少ない食事量を摂りがちになってしまう傾向があります。サルコペニアに陥らないためには「適度な運動」と「バランスのとれた食事」「生活習慣の見直し」「積極的な社会活動への参加」「慢性疾患の管理」を行い心身の健康を維持することが大切です。運動は下肢、および体幹を鍛える運動が重要です。
バランスの取れた「食事」と食べるための「口腔ケア」
筋肉をつくる主な栄養素のたんぱく質は、肉や魚、卵、乳製品、大豆製品に多く含まれています。たんぱく質はアミノ酸から構成されており、食事からしか摂ることのできないアミノ酸(必須アミノ酸)もあります。必須アミノ酸は色々な食材から組み合わせて摂取することが大切です。たんぱく質だけではなく、筋肉を動かすエネルギー源となる炭水化物(米・パン・麺類)や脂質(油、バター等)とたんぱく質の働きを助けるビタミンB6(マグロの赤身、カツオ、赤ピーマン、キウイ、バナナ)も合わせて摂るようにしましょう。
運動の低下と栄養の低下がメインの要因になっているが、隠されたところで「口腔ケア」の問題があります。歯周病・歯の残存数の減少・噛み合わせの悪さなどによる「咀しゃく機能※の低下」や、舌の動き・飲み込み機能の低下による「嚥下機能※の低下」などが関わっていることがあります。食べ物をたべよう!運動しよう!といってもなかなか気づかない分野なので、かかりつけの歯科医、あるいは歯科衛生士さんにみてもらうことも大切と思います。
- ※1:食物を細かくなるまでよくかむ機能
- ※2:咀しゃくした食事を飲みこみやすい大きさに取りまとめ喉の奥へ飲みこみ、食道から胃へ送り込む機能
フレイル
フレイルとは、一言で言えば、加齢に伴い心身の活力が落ちた状態を意味します。2014年に日本老年医学会(以下、老年医学会)によって「加齢に伴う様々な機能変化や予備能力低下によって健康障害に対する脆弱性が増加した状態と理解される」定義されました。
「Frailty(フレイルティ)」に対する日本語表現で、直訳すると「虚弱」「老衰」「脆弱」などとなります。言葉としてはネガティブな印象ですが、正しく介入する(周りのサポートを受ける)ことで戻るとされています。その点を強調する意味で老年医学会では「フレイル」という表現を提唱されました。
フレイルにはサルコペニアやロコモで中心となった身体的要素(身体的フレイル)だけでなく、孤独や閉じこもり(社会的フレイル)、人と話さないためにうつや認知症になる(精神的フレイル)の3つの要素が関わりあっています。
診断の基準はこれら5つ。一度、ご自身でも確認をしてみてください。
- 1.意図しない体重減少:年間4.5kg又は5%以上の体重減少
- 2.主観的活力低下:疲れやすいと週に3−4日以上感じる
- 3.握力の低下:利き手男性26kg未満、女性18kg未満
- 4.歩行速度の減退:5mの歩行で1m/秒
- 5.活動度の低下:運動・体操はしていない
フレイルの原因には以下のようなものがあげられます。ロコモやサルコペニアと違うのは「収入・教育歴・家族構成など」といった項目があげられる点と言えます。
- 1.加齢に伴う活動量の低下と社会交流機会の減少
- 2.身体機能の低下(歩行スピードの低下)
- 3.筋力の低下
- 4.認知機能の低下
- 5易疲労性や活力の低下
- 6.慢性疾患(呼吸器・循環器疾患、抑うつ症状、貧血)に罹患
- 7.体重減少
- 8.低栄養
- 9.収入・教育歴・家族構成など
身体的フレイルの診断で最も簡単なものに「指輪っかテスト」というものがあります。人差し指と親指で輪っかを作り、ふくらはぎの一番太い部分にはめてみてください。
掴めない場合は十分に筋力があり、フレイルの可能性は低いと言えます。しかし、掴めて隙間ができてしまう場合はフレイルの可能性が出てきます。これは老年医学会で提唱されている誰でもできる簡単なテストになっていますのでお試しください。
第3回 負のスパイラルを断ち切る編はこちら
■解説
三橋尚志 Takashi Mitsuhashi
- ■役職等
- 京都大原記念病院 副院長
- 京都大原記念病院グループ 医療連携室 室長
- 一般社団法人 回復期リハビリテーション病棟協会 会長
- ■資格等
- 日本リハビリテーション医学会指導医
- 日本整形外科学会指導医
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