【外部発表のご紹介】複数回の経頭蓋的磁気刺激治療において段階的に失語症状が改善した1例
よりよいリハビリテーションの提供を目指し、日々の現場だけでなく研究活動や、学会発表などに取り組んでいます。今回は8月に参加した「第1回日本スティミュレーションセラピー研究会」で発表した演題についてご紹介します。(抄録は記事最下部よりご覧いただけます)
複数回の経頭蓋的磁気刺激治療において段階的に失語症状が改善した1例
―発話困難な状態から短文レベルでの発話獲得まで
- 伊藤実希(京都大原記念病院 理学療法士)
- 第1回日本スティミュレーションセラピー学会 2019年8月
経頭蓋的磁気刺激治療(以下、磁気刺激)と集中的言語聴覚療法を併用し、計4回の短期入院を経て発症から5年を経過しても、発話能力(言葉を音声として発すること)が段階的に改善を振り返り、効果と、他の要因について同治療前後の言語聴覚機能評価の結果、リハビリテーション記録や生活状況などについての情報を振り返りました。
対象患者はA氏(70代・男性)。A氏が最初に同治療を受けたのは、発症から2年経した時期。そこから発症5年目にかけて合計4回治療を受けています。内容推測困難な状態から2文節文レベルまで見られるようになりました。経過は以下の通りです。
- ■発症2年後(磁気刺激1回目)
- 自ら話をしようとする姿が見られますが、聴き取りは困難なレベルでした。
↓
- ■発症3年後(磁気刺激2回目)
- 聴き取りが難しいことが多かったものの、時折単語レベルの発話がみられました。
↓
- ■発症4年後(磁気刺激3回目)
- 単語レベルが主でしたが、2 文節レベルで話をする姿が見られ始めました。
↓
- ■発症5年後(磁気刺激4回目)
- 2 ~ 3 文節レベルで話をする姿が見られ始めました。
- 【参考】文節と単語?
- ■私は/学生/です。→ 3文節
- ■私/は/学生/です。→ 4単語
先行研究では、「長期間にわたり言語機能に回復を示す可能性は高いが、広範囲に病巣が広がる例では、40歳以上の高年齢発症になると、発症から2~3年程度の期間で、機能回復に制限が現れる可能性がある」(中川良尚・小嶋知幸(2012)『慢性期の失語症訓練』、高次脳機能研究32 巻2 号p. 257-268)と述べられています。今回の症例で改善が見られたのは、1回目の磁気刺激を発症から3年以内に実施できたことが、1つの要因になったと考えます。しかし、発症から4年以上経過しても段階的な向上が見られており、年齢も70歳代であるため、この改善は、磁気刺激の効果ではないかと考えます。
他の要因では、「日本語話者の慢性期失語症患者において短期集中的言語訓練の有効性」(草野みゆき・春原則子・渡辺基・百崎良・安保雅博『慢性期失語症患者に対する短期集中的リハビリテーションの効果』、高次脳機能研究32 巻4 号,p. 601-608)を述べています。磁気刺激を受ける前の言語訓練の少なさに伴う廃用により、言語機能が低下していた状態からの集中的言語療法を実施したことによる効果も大きい可能性があると考えました。
また、ご本人の意欲が高く、ご家族が協力的であり、毎日自主訓練を継続されました。このことが磁気刺激を受ける各回の間に大きな機能低下をさせることなく複数回治療の効果を促進したのではないかと考えました。
抄録はこちら
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