脳卒中を予防しいつまでも健康に
- 【2019年5月22日公開】
- 【2020年10月29日更新】
- 【2024年4月1日更新】
【Index】
Part1 脳卒中はなぜ怖い
Part2 脳卒中とは?症状とリスク要因
Part3 脳卒中予防の秘訣
人生100年時代、大切なのは健康寿命
京都大原記念病院では、脳卒中の後遺症からリハビリテーションに励む患者様が多くいらっしゃいます。全203床(うち、回復期リハビリテーション病棟172床)で運営しており、その6~7割程度が該当します。
今日は脳卒中の予防をテーマに皆さんと一緒に考えて行くことができればと思います。
2018年9月15日の敬老の日、この時点で日本には100歳以上の方が6万9,785人いると発表されました。100歳を超えるご長寿は大変すばらしいことです。この数は今後どうなっていくでしょうか?
団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる2025年問題という話は聞かれたこともあると思います。そこからさらに25年を経過した2050年には、100歳以上の人は50万人になると言われています。今よりもさらに平均寿命が延びるなどして、このような増加が見込まれています。
いよいよ人生100年時代です。
日本がなぜこのような時代を迎えたのかを考えると、大きく3つの理由が考えられます。
「安定した食糧供給」
「安全な都市」
「医療の発達」
の3つです。世界を見れば、まだ飢餓による貧しい子供たちが飢えで亡くなることもありますが、日本では食糧が安定して供給され、まずそのような話は聞きません。また世界的にみても治安は良く、そして時代とともに医療が発達してきた。
このような背景で迎えた時代と言えるでしょう。
なかでも食糧は大きな要因です。
一つ話をご紹介すると、動物園のゾウはおよそ50年程度で亡くなるそうです。ただ飼育員によると「もしゾウに入歯を作ることができれば寿命はもっと延びる」と言われているそうです。
ゾウは年を重ねると歯がすり減るなどして弱ってしまい、徐々に物が食べられなくなり衰弱して亡くなるからだそうです。
日本での平均寿命は大変な伸びを見せますが、とはいえ寝たきりで迎える100歳はきっと誰も嬉しくありません。自分で生活できる状態を維持して100歳を超えてほしいと思っています。
京都府はの平均寿命も不健康な期間もとても長い・・・
皆さんは「健康寿命」という言葉をご存じでしょうか?
健康寿命は「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義されています。つまり、平均寿命と健康寿命との差は、日常生活に制限のある「健康ではない期間」を意味します。
この健康でない期間は、直近では男性で平均して8.84年、女性で12.35年となっています。私達は医療者として、この不自由な期間をなるべく短く、できるだけ健康に平均寿命と同等の期間を健康に過ごしていただけるようになってほしいと思って取り組んでいます。
そうすれば、きっと国としても、またこれを支える若い世代も助かることになります。やはり健康に過ごしていかなければなりません。
ここで全国都道府県別に平均寿命と健康寿命の差をみていたいと思います。横軸は平均寿命、縦軸は健康寿命を示しています。右に行けば平均寿命が、上に行けば健康寿命が長くなることを意味しており、右下へ行けばいくほど平均寿命と健康寿命の差が長くなります。
私達がいる京都はどうでしょうか?
男性は約10年、女性は約14年となっています。京都は平均寿命は男女ともに全国でも高い順位に位置(男性:3位/女性9位)しているものの、健康寿命でみると中盤以下(男性:28位/女性:44位)というのが実情です。
京都は長生きするけれど、不健康な期間も長いということが言えるこの状況については、京都人のプライドにかけてもなんとかしたいと思う部分です。
寝たきりになる理由の3分の1が「脳卒中」
さて、65歳以上の要介護1~5に認定された方の介護が必要となった主な原因は全体でみると約15%が脳卒中が要因となっています。
ここからさらに要介護5(寝たきり)の方を抽出してみると、脳卒中を要因とする方は約3分の1まで割合が増加します。
ここから、脳卒中で倒れると、寝たきりになり、結果として人の世話にならなければならなくなる確率が高まってしまうということも言えます。
ここからも脳卒中の予防が大切なことがお分かりいただけると思いますが、それだけではありません。脳卒中の予防が重要なのは「脳卒中は日本人の死因の第3位を占める」「生存者にもしばしば重篤な後遺症が残る」「寝たきり等、要介護者の原因の3割以上を占める」「高齢化とともに、患者数の増加が予測されている」「国民医療費の1割を占めている」ことがあります。言い換えると、脳卒中は社会的負荷の最も重い疾患ということです。脳卒中を予防し元気で過ごしていく社会を作って行かなくてはなりません。
脳卒中は血管が「つまるもの」と「やぶれるもの」
脳卒中とひと言ではいうものの、大きくは「血管がつまる」ものと、「血管がやぶれる」2つのタイプに分かれます。
まず詰まるものが「脳梗塞」であり、そのなかでも「アテローム血栓性脳梗塞(以下、アテローム)」「心原性脳塞栓(以下、心原性)」「ラクナ梗塞」の3種類に分かれ、また別途1時間以内で症状が改善するような「一過性脳虚血発作」と呼ばれる症状もあります。
次に脳のなかで血管がやぶれて血の塊ができてしまう「脳出血」です。発生する部位により呼び方は少しずつ変わりますが、大きくは脳出血として分類されます。
そして、「クモ膜下出血」です。これら2つが血管が破れるタイプの脳卒中となります。
一つずつご紹介していきます。
「アテローム」は、頭の中の血管が動脈硬化により徐々に細くなっていく。やがてその血管がつまってしまい、血が行かなくなることで梗塞が発生するものです。
これに対し「心原性」は、通常は規則正しく動いている心臓(心房)が不規則に動く「心房細動」により、血液の流れがよどむことにより発生します。血液はよどんでしまうと固まる性質を持っています。よどんで固まった血の塊が、なにかの拍子に脳に飛んできて、血管でつまり梗塞が発生します。
いずれも血管に血の塊がつまることは共通しています。しかし、大きな違いはアテロームは徐々に細くなって発生するため、血管に迂回路ができる時間的余裕があるのに対し、心原性は血栓が突然飛んで来てつまるという点です。
アテロームは準備をする時間がありますが、心原性は突然つまってしまうためこちらの方が大きく重症な梗塞となることが一般的です。
次に血管がやぶれる「脳出血」です。これは脳内の血管が破れて血の塊をつくり、結果的にその部位の脳細胞を破壊して障害が発生します。
もう一つ「クモ膜下出血」は、頭の中の血管にできた脳動脈瘤という血の瘤が、何かの拍子に破れてしまい脳の表面のクモ膜下に広がる形で発生します。動脈瘤は放置すると非常に破れやすく、すくなくとも破れた場合には緊急で何らかの処置が必要となります。
突然発症する脳卒中の多くは「生活習慣」が原因
脳卒中はこれまでの話の通り、突然に発症します。
ただ何の前触れもないかと言えばそうではなく、それまでの生活習慣の結果として発症するのです。生活習慣のなかで、栄養過多、喫煙、飲酒過剰、運動不足、ストレスといったことから、高血圧、糖尿病、高脂血症、心房細動、その他の心疾患などの生活習慣病を生じ、結果として脳卒中へとつながります。
こうした経過を長期継続的に追跡する「多目的コホート研究」という調査があります。一定の地域の一定の人口の集団を、10年、20年と病歴などの経過を追いかけることで、様々な病気や死亡の原因を調査するものです。そこで公表されたデータをみながら脳卒中の予防について一緒に考えて行きたいと思います。
●栄養過多
皆さんはBMIをご存じですか?体重(kg)を身長(m)の二乗で割り算して算出する指標です。つまり、この数字が大きくなると肥満が進んでいると言え、目安として25.0を超えてくるとお腹が出てくるような状態と言えます。
研究では23.0~24.9を標準と捉え、この時の脳卒中の発症リスクを1とした時、BMIが増減すると脳卒中発症リスクがどうなるかを検証されました。結果は女性で統計的な有意差がはっきりと出ました。BMIが増えて肥満が進行し、30を超えてくるようになると標準範囲に比べ2倍以上にリスクが高まることが示されました。男性の場合はあまり目立った差はみられませんでした。
●たばこ
脳卒中全体で見た時、やはり煙草を吸わないよりも吸う方がリスクが高くなることが統計的にもはっきりと示されました。クモ膜下出血に絞り調査してみると、女性は喫煙率が低く調査ができなかったようですが、たばこを1日1本以上吸う人は吸わない人に比べて発症リスクは3倍から4倍へと高まることが統計的にも示されました。また脳内の大きな血管で起こる脳梗塞(大血管性脳梗塞)についても発症リスクが2倍強へ高まることが確認されています。
たばこを吸う人に言わせると精神安定やストレス解消など、理由を付ける方もいますが、健康には決して良くなく「百害あって一利なし」と思います。
●お酒
脳卒中のなかでも出血性脳卒中については、飲まない、もしくは時々飲む(晩酌程度)という方と比べると、日本酒にして1日平均約1合未満から飲酒量が増えるにつれて出血性脳卒中の発症率は増えてゆくことが分かっています。しかし、脳梗塞についてはどういう訳か、1号未満の場合はかえってリスクが低くなるようです。
適度なお酒は健康に良いという話は昔からあります。その量は、日本酒:1合、焼酎:0.6合、ウイスキー:ダブル1杯、ワイン:ワイングラス2杯、ビール:大瓶1本程度が目安です。これはアルコールの量で計算されたものです。それぞれの範囲であれば、ビールとワインと日本酒と、、、と飲んでよいというものではなく、度が過ぎるのは当然よくありません。
●運動不足
運動の強さを示す「メッツ」という単位をもとに示された調査結果です。座っている時で1メッツ、普通に歩く時で3メッツ、ジョギングで7メッツ、ランニングで10メッツという感覚でご覧ください。
脳卒中全体の発症リスクはおよそ5メッツで最も低くなることがわかります。しっかりと歩くことは、予防に確かによいとここからもわかります。具体的には普通のペース、もしくは早足で1時間程度歩行するくらいになります。
少し詳しく見ると、脳梗塞の場合は運動が激しくなっても、それほど危険率は上昇せず、運動しない時よりもよい状態をずっと維持できることがわかります。しかし、出血性脳卒中になると、運動の激しさを増すと少しずつ危険率を増して行きます。つまり、脳卒中予防のための運動という意味では「適度な」運動が大切ということです。
ジョギングの場合は歩く場合に比べると、早い段階で出血性脳卒中の危険リスクが高まります。長い時間ジョギングすることや、全速力で走ることは普段の健康管理としては、あまりよくないと言えるでしょう。競技としては走るのは時間も限られているので、また別物と捉えていただくのがよいと思います。ウォーキングの場合は、長く歩いても危険率はあまり上がらないことがわかります。健康管理をするための運動として手短に取り組むのは歩くことがやはりよいかもしれません。
いつ歩くのがよいということはありませんが、普段の生活リズムに合わせて無理なく続けられるようにすることが大切です。一つ心がけとして、運動前には血圧をきちんと図って管理することが大切です。
こうした内容を参考に、自分の生活習慣を見直して実践していくことがまず大切な脳卒中予防の秘策です。
しかし、それでも生活習慣病になったらどうするか。この点も考えてみましょう。
●高血圧
血圧が高くなればなるほど発症率が高くなることが分かります。特に、最高140/最低90を超えてくるようになると統計的にもリスクが高まると有意差が見られます。男女で程度は異なりますが、血圧をしっかりと管理していくことが大切です。
今年に入って、高血圧治療のガイドラインが更新され診察室で測る血圧(少し緊張感のある状態)での正常血圧基準値が引き下げられました。
できるだけ最高130/最低80mmhg以下を目指しましょう。ただし、もともと脳の血管に病がある場合などは下げ過ぎるとリスクになる場合があります。医師の管理のもとでしっかりとコントロールしてほしいと思います。
ご自宅で血圧を管理する際には、まずは1日のうち安静時に時間を変えて何度か測って自分の血圧のパターンを知ることも大切です。そのなかで特に高くなるポイント(時間)などで管理するのがいいでしょう。
モーニングサージという言葉があり、朝方が高い人は脳卒中になりやすいということも分かっています。もし、あてはまる場合は、より意識して管理するようになさってください。
●糖尿病
糖尿病でない人に比べて糖尿病がある人、または糖尿病ではないけれど食後血糖がたかくなってしまう耐糖能異常とされる状態の場合も最大3倍程度まで発症リスクが高まることが分かります。糖尿病もしっかりと管理しなくてはいけませんね。
●人口寄与危険割合
調査のなかで、この病気がなくなれば脳卒中の発症がどの程度減るかを調査したものがあります。このなかで、高血圧をなくせば約35%、タバコをやめれば約15%、肥満や糖尿病をなくせば約5%程度減少するという結果が出ています。特に高血圧の管理やたばこをやめることができれば、しいては寝たきりの方を減らすことにもなると言えるかもしれません。
●加齢
歳をとるごとに、脳卒中の発症リスクは誰もが高くなります。しかし、理想的な健康管理をしている人に比べて、高血圧のある方はほぼ倍のペース、糖尿病も加わればそのさらに倍程度のペースで上昇してしまうこともわかっています。
昨年には脳卒中を含む循環器病を予防し、国民の健康寿命を延ばしていくことを目的とした法律(健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法通称:脳卒中基本)も成立し、今後ますます予防に向けた施策も実施されていく事になると思います。
脳卒中予防に重要なのは「3R」
ここからは脳卒中予防の秘策についてまとめてみたいと思います。
ポイントは「Recognize(危険因子を発見する)」「Reduce(危険因子を減らす、治療する)」「Respond(発作に反応する、早期に受診する)」という3Rです。
今日の話で様々なリスク要因についてご紹介しました。血圧や、糖尿などの変化を早期に発見する(Recognize)、そのためには定期的に検診や評価をしてもらうことが大切です。実際の診療でも、普段高い人はあまり気にしておらず診察した時には最高160mmhgを超えているというような方も時折いらっしゃいます。糖尿も普段は分かりませんが、血糖値が高くなると、尿に糖が降りて、のどが渇いて尿の量が増えてまたのどが渇くというサイクルが起こります。例えばこうした変化があれば早期に発見して、早期に治療することが大切です。
そして、危険因子を減らす、治療する(Reduce)。もし何らかの危険因子が見つかった時は早期に治療して減らしていくことが重要です。たばこの場合は、禁煙パッチなどの方法が増えているのでうまく活用して自分の意思でやめましょう。1、2本くらいと続けてしまうと結局もとに戻ってしまうので、きっちりと止めることが大切です。
そのように意識しても何があるかは誰にもわかりません。もし何らかの異変がありいつもと違うなというような場合は、すぐに受診(Respond)してください。
脳卒中治療は時間との勝負「FAST」はすぐに病院へ
脳卒中の治療法は急速に進歩しており、カテーテルで血の塊を取り除くなど適切に治療することができれば症状なく改善できる確率も非常に高まっています。ただし、そうした治療を行うにも発症してからできるだけ早く受診する必要があり、時間との戦いになります。
t-PAという治療があります。薬で、詰まった血の塊を溶かして血流を再開通させるというものですが、これは発症後4時間半以内に治療を開始しなければ使用することができません。それ以降は大きな合併症を引き起こす可能性が高まることが統計上分かっているからです。
病院に搬送されてから脳梗塞と判断するまでにはMRI画像診断などがあり、1時間程度かかります。つまり、発症してから3時間くらいまでには病院へ行き検査を受ける必要があります。
またカテーテル治療については、発症してから6時間以内とされています。t-PAと同様、それ以降はリスクが伴うためです。梗塞が起こり血液が流れなくなった血管は弱っています。血の塊を取り除き、弱った血管に急激に血流が再開されることになると、血管が破れて大出血する場合もあります。
このように脳梗塞の治療は時間との勝負になります。
アメリカでは「ACT FAST」というキャンペーンが展開されています。
脳卒中で起こる代表的な3つの症状を取り上げたFASTという標語も良く使われます。FはFace(顔)。顔がゆがんだりよだれがこぼれてしまうのは信号の一つです。AはArm(腕)。目をつむって両腕を前に出すと、片方が徐々に下がってきます。自分で見ても良いが、目をつむって人に見てもらうほうがいいです。SはSpeech(話す)。言葉が出なかったり、呂律が回らなくなるのも代表的な症状です。これら3つの症状のうちどれかに当てはまると脳卒中を発症している可能性を示す、サインです。そこからは時間(Time)との勝負で、早く受診する必要があります。
このような症状が突然起こった時、少し様子を見てみるという方は多い。結果的に、しばらく様子を見たけれど状況が良くならないので受診したという方もいらっしゃる。その時、多くは3、4時間以上経過していて残念ながら効果的な治療を受けることが出来ない場合もあります。
このような症状が起こった時、救急車を呼ぶなどしてすぐに病院へ行ってください。t-PAなどの治療は所定の講習を受けた医師でなければ実施できません。適切に症状を伝えることができればそうした医師がいるなど適切な治療ができる病院へ搬送してくれるはずです。
リスク要因を知って生活習慣の改善を
最後に、脳卒中予防の秘策は結局のところ誰かにしてもらう他力本願ではできない、ということです。予防の最大の秘訣は「行動変容」自らの行動を変えていくことが一番です。
今回はさまざまなリスク要因についてご紹介をしました。それをご理解いただいて、タバコをやめる、血圧を管理してリスク要因事態を回避する。もし該当する場合は早期に受診してリスク要因を解消するなど行動することが大切です。
自分の意思を明確にして「血圧がちょっと下がったからもういいや」「もう大丈夫だから薬はやめておこう」と自己判断での行動は結局改善の妨げになります。血圧などできることから、しっかりと管理して、ぜひ1日でも長く健康な生活を続けていただければと思います。
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【演者】
垣田清人
- 京都大原記念病院 院長
- 日本脳卒中学会認定脳卒中専門医
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