リハビリマインド_垣田清人院長 (3/3) 「人生の充実感を探す支援を目指す」
垣田清人医師(京都大原記念病院 院長)に脳神経外科医からリハビリ医療に転身して13年間、見てきたこと、培ったリハビリマインドをテーマに話を伺いました。全3回に分けてご紹介します。
第3回は「リハビリの現場で思う医師の役割やマインド」がテーマです。現在、そして未来を見据えて考えを述べています。
医師は各専門職の知識を引き上げまとめる「チームリーダー」
チームで患者様と向き合う
私はこれまでの約40年間、急性期、そして回復期で多くの患者様と出会ってきましたが、「医師としてこうあらねば」という思いはあまりありませんでした。医師だから、患者だからではなく、一人の人間同士として自然体で接する。そのなかで、私の持てる知識で応えて行ければと日々対応しています。
大切なのは、チーム医療です。院内での医師の役割は、各専門職の知識を上手に引き上げてまとめる「チームリーダー」と捉えています。周りからは「医師が一番上」と階層的に見られることがありますが、そうではないと思っています。重要なのは、お互いの持てるものを出し合って、一人の患者様に向き合うことです。私は、声かけをするなどして、ムードを作れるよう意識しています。
人生の充実感を探す支援を目指す
急性期在籍時は、当然、第一に救命であり、それがモチベーションになっていました。今は、当時知らなかった、急性期を脱した後の患者様の様子を、時間をかけて診ることができています。自分の人生で、専門である「脳卒中」の最初から最後までを診ることができている、という点で充実感を得ています。
自宅への退院が叶わなかった患者様を見るとつらさはありますが、無事に自宅へ退院し(元通りとは行かないまでも)生活を取り戻したとか、次のステップを見出すことができたという患者様を見ると嬉しく思います。
そのためには、どこかのタイミングで患者様自身にも気持ちを切り替えていただいて、今の状況で一番良い人生の歩み方を一緒に考えていきたいと思っています。実際うまく切り替えられずに、自宅に帰っても思うような生活にならない方、外に出られなくなる方がいます。御所南で外来診察していても、障害を引きずり、単にリハビリを続けているだけになってしまう方も見受けられます。
私は、安易に「頑張れば良くなる!」という言い方はしません。「障害を克服する」という言葉を、「障害が治る」と理解する方もいるからです。しかし、現代の医学では完全に元に戻ることは難しい、というのが実情です。だからこそ、障害を受け入れつつ「その人にとって一番の歩み方」を見つけて人生の充実感を味わっていただけるように、私たちも最大限の努力と支援をします。
障害者スポーツを見るとき、選手たちも(その経緯にもよるでしょうが)おそらく当初はなかなか障害を受け入れることができなかっただろうと想像します。それでも選手の皆さんがいつもとても良い顔をされているのは、その状態での自分の生き方を見つけられたからだろうと理解しています。患者様にも、そんな顔で生活してほしいというのが私の願いです。スポーツにはそれなりの能力が必要ですが、先ほど話題に挙げた農業(グリーン・ファーム・リハビリテーション®)には参加してみてほしいです。自分の生き方を見つめ直し、自分のできる中から楽しみを見つけてほしいし、そうアドバイスしていくことが一番良いかと思っています。
医療者である前に一人の人間として大切にしたいマインド
京都大原記念病院の回復期リハビリテーション病棟にご入院されている患者様の90%以上は、グループ外の医療機関等からご紹介いただいています。これは、日々連携する医療機関等との信頼関係があってのものです。リハビリの成果はもちろん、これまでに重症な患者様も受け入れてきたという実績も、選んでくださる理由にあると考えています。またグループとして、老健や特養など様々なステージを展開していることも要因の一つでしょう。
京都大原記念病院に来て最初に驚いたのは、どの職員も「こんにちは」と挨拶をしてくれたことでした。これは私だけでなく、退院時に実施しているアンケートや来客からもお聞かせいただく感想です。私たちは、医療人である前に一人の人間です。マインドとして根付くこうした文化を、これからも大切にしていきます。
時代の変化をとらえ、リハビリ専門病院として歩み続ける
今後ますます時代は変わって行きますが、少なくとも今頑張っていることは、京都で一番だと自負しています。それは、これまで積み上げてきた結果が示しています。これからも、リハビリ病院として信頼を重ねていきます。また、強みとも弱みともとれる立地も、環境を最大限に活かし「大原だからできること」を大切に取り組んでいきます。
ハード面の老朽化も課題ですが、患者様向けのスペースはもちろん、働くスタッフの環境改善にも取り組んで行きます。気持ちよく働ける環境があってこそ、患者様に対して良い仕事ができると思うからです。
ご紹介いただく医療機関の皆様には、患者様の「その後の人生」を考える一つのプロセスと捉えて送り出してくだされば幸いです。患者様の人生を作り上げる「仕上げの場」として、目的を持って任せていただけるようチーム一丸となって全力で向き合います。
- 【Profile】
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垣田清人(かきたきよひと)
京都府立医科大学を卒業後、2年間東京の大学病院で研修した後に帰京。医局へ入らず、京都第一赤十字病院(以下、第一日赤)に直接入職。京都大原記念病院 院長に就任するまでの約30年間在籍。本人曰く「私は外様なんです(笑)」。
- |資格|
- 京都大原記念病院 院長
- 日本脳神経外科学会専門医
- 日本脳卒中学会認定脳卒中専門医
- 【連載第1回はこちら】
- 変化に富み、忙しくも充実した急性期時代
- 【連載第2回はこちら】
- リハビリは脳を介して取り組むべきだ
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