京の奥座敷とも呼ばれる大原。朝夕の寒暖差とほどよい湿度、肥沃なこの土地は最高品質の紫蘇(シソ)をはじめとする農産物の栽培に適しています。農産物のほとんどが露地栽培のため、大半は朝市など地元でしか購入することができないことも大原野菜の特徴です。
年間90万食の病院・施設の食事を提供する京都大原記念病院グループは、希少な大原野菜を患者様、ご利用者のお食事にお出ししたい!と思うようになり、動き始めます。
2010年、地元農家との直接取引を開始。介護付き有料老人ホーム「ライフピア八瀬大原1番館」で、月1回「地産の日」として大原野菜を献立に取り入れ始め、翌々年にはグループ内5施設へも取り組みを拡大しました。
現在、全6施設が地産地消を推進するモデル施設として、京都府から「たんとおあがり京都府産」施設の認証を受けました。またその献立は「地産地消等メニューコンテスト」において近畿農政局長賞を受賞しました。
大原野菜を導入するだけでなく、この環境を活かして「大原だからできること」を生み出すことができないか。有志の職員が集い、紫蘇栽培を皮切りに季節の野菜の栽培を敷地内の休耕地となっていた農地の一角でスタートしました。
収穫した野菜はスムージーに調理し、患者様、ご利用者、職員に提供しました。
反応は上々。手ごたえを感じ、取り組みの拡大・本格化を目指し栽培(農業)に着手します。
当然ながらスタッフは農業の素人です。経験が乏しくノウハウもない。多くの課題に直面しました。課題を解決したのが、タキイ種苗株式会社(本社・京都)との出会いでした。
医療に農業を活かしたいという考えに共感いただき、品種の選び方、畝(うね)づくり、収穫時期の見極めなど農業指導くださるようになりました。
こうした縁をきっかけに、一時は45品目(約1トン・平成27年度実績)を収穫するなど、活動は飛躍しました。
農園は屋外訓練や、患者様と面会のご家族が一緒に散歩される約800mの周回路沿いに位置します。自家菜園での一喜一憂と試行錯誤を繰り返しながらの取り組み過程は、患者様の目にも映り、やがて「リハビリとして農作業をやってみたい」「ここで育てた野菜を料理してみたい」といった希望が聞こえるようになりました。
こうした声が後押しとなって、本格的にリハビリテーションに農業を導入するようになります。
※セラピスト:理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の総称
当初は退院後に農作業をしたいと願う患者様などから徐々に活動に参加いただくようになりました。
現在は、主治医の処方に基づき高次脳機能障害のある患者様の心理面・情緒面の賦活、また不整地での立位バランス訓練にも活用されています。
活動の幅の広がりとともに、医学的な根拠の積み上げを課題に、タキイ種苗株式会社、京都府立医科大学との共同研究事業として、取り組みを重ねています。